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素材

私たちが選んだ素材です。喜んで大切に召し上がっていただければ、それだけで十分です。

もの作りは、作り手の考え方や性格が手綱をもち、すべてを決定します。そして、もの作りに挑戦するものには、あこがれる作り手の背中があります。それまでのマヨネーズの味に超えなければいけない大きな壁を感じた昨年、この純米酢に出会い、それは壁ではなく、山であったことを教えられました。規格統一された原料を安価で安定して仕入れることが可能な時代。
天候に大きく左右される農産物の栽培から手がける食品は、職人と呼ばれた人たちが次々と捨てていった志と夢になってしまいました。

発酵の源泉である微生物は活性できる環境と時間さえあれば、食品に限らず、薬の成分をつくり、プラスチックを分解するだけの力を持つ生き物です。しかし一般に売られているお酢は、酢酸菌を添加した仕込みタンクに人工的に空気を送り込み攪拌しながら酢酸発酵を促進し、数時間から1日の工程で出来上がります。人の時間軸に詰め込まれた微生物が、結局、ツーンと鼻を刺す強烈な匂いや、酸味以外何の味もないお酢しか造れなかったのは仕方がないことなのです。

純米醸造酢

創業明治26年。日本を代表する京都の醸造酢会社です。

高度成長期の昭和30年代。日本の農業は、毒性の強い農薬漬けの状態でした。
田植え直後には、農薬を使用したという赤い旗がたち、田んぼの出入りを禁止され、急いで通り抜けるよう学校で指導されました。

このような環境が続いていた昭和39年、体への影響を危惧した三代目当主がお酢作りにかかせない米の無農薬栽培に取り組み始め、やがて生産を軌道にのせていきます。しかし、その間に大量生産、大量消費が美徳であるという新たな時代の流れがうまれ、つられて私たちの味のセンサーも新らしい基盤の上で反応するようになり、中には今まで食べていた味や香りを敬遠する食品も出てくるようになりました。お酢がその一つです。

僅かな原料で製品化される市販のお酢は原料由来の匂いが弱く、逆にこの蔵が造った旨味を最大に引き出すために大量に使用した米の香りは、皮肉にも時代の中で弱点となってしまいました。この部分の改善に取り組んできた四代目当主は大学で醸造を学んだ、現五代目当主とともに香りの研究をさらに深化・深耕していきます。そして、農薬全盛期の時代に三代目当主が無農薬栽培米を原料とした純米醸造酢を世に送り出してから38年目、2007年秋、20年来の親子の夢がかない、「やさしい香り」「穏やかな酸味」「大吟醸のように繊細で円熟味のある」純米醸造酢ができあがりました。

「純米醸造酢」は、京都・丹後の山里で農薬を使わずに育った新米だけと山から湧き出た伏流水を原料に造られます。冬になり、精米を終えた新米は、麹づくり、酒母づくりと進み、酒母づくりを終えると大きなタンクに移し変えられ、水、麹、蒸し米の順に3回に分けて投入されたあと、約30日かけて「酢もともろみ(酒)」になっていきます。出来上がった酢もともろみ(酒)は、お酢蔵に運ばれようやく、お酢の仕込みがはじまります。発酵を機械的な攪拌で促進させず、静置発酵(発酵至適温度を常に保ちながら、自然な対流にまかせて発酵させる製造法)により、酢酸菌は80~120日かけて酢もともろみ(酒)のアルコール分をお酢にかえていきます。発酵を終えたお酢は、240~300日の長期熟成期間に入り、その間は、ワインのデキャンタージュと同じく、お酢を空気に触れさせるためにタンクごとの入れ替えを何回も行ってやっと出来上がりです。

日本農林規格(JAS)で「米酢」と表示できる米の使用量(1リットル/40g)の8倍以上の米を使い、米作りから製品化まですべての工程を自社で行い、1年半以上の時間をかけて完成した「純米醸造酢」。安心、安全、こだわりなどの言葉でむせ返っている食品業界。目の前にある商品に対する理解や評価は、情報の乏しかった時代では考えられなかった既視感が先に立ちます。

しかし、鳥の目をもっても捉えられないような砂漠に落ちたダイヤモンドを探し出せる人たちもいます。

LVMH NOWNESS

LVMH(Moët Hennessy-Louis Vuitton モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)とは、1987年に、ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシーが合併してできた会社で、フランス・パリを本拠点とし、ヨーロッパを中心にLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン)、LOEWE(ロエベ)、Dior / Parfums Christian Dior(ディオール/パルファン・クリスチャン・ディオール)、BVLGARI(ブルガリ)など世界中で知られる60近くの高級ブランドが傘下にある世界最大規模のブランドグループです。このLVMHが運営するNOWNESSは「感動を呼ぶ規格外の物語の語り手になる」というコンセプトでジャンルにとらわれずアートから著名なクリイエーターによるショートフイルムまで、ここでしか見られない独自のコンテンツをデジタルマガジンで世界中に発信しています。

2016年1月7日、NOWNESSは「最後に残った日本の職人たち」と言うタイトルで、この蔵の米栽培から手がける貴重な醸造蔵のお酢つくりの思いと理念を世界に紹介しました。その中で、お酢の主原料であるお米を自分たちでつくる事から始める。それは毎年違うお米の性格の機微を知るためには絶対に欠かせないステップだと五代目当主は語っています。日本はお米が主食であることから米栽培技術は世界に誇れる水準であることは確かです。でも、そういうことではないということです。

NOWNESSはこの蔵のお酢造りへの信念を通し、私たちが日常良く使うスペックというものからあなた達は文化と魂を奪われていないか?と問いかけているのかもしれません。

同時に、この蔵が育て守り進化させてきた醸造酢文化を、LVMHが認め感動したということでもあります。

無花果酢(いちじくす)

純米醸造酢と同じ蔵で造られる、無花果を使った果実酢です。
毎年1回、10月。最高に熟した無花果は、当日収穫された、生食用として店頭に並ぶものと同じ品質で、事前にツヤ出し剤の吹き付けをしないよう指示されたもの。この完熟無花果をこの蔵のスタッフが愛知県まで取りに伺うところからこのお酢造りは始まります。

無花果は、果皮が薄く丁寧な扱いが必要な上、傷みやすく足の速い果物。
そのため、総量1トンの無花果の仕込み工程(収穫、輸送、検品、計量、ペースト)は高速で進めなければいけませんが、すべての作業を1日で終わらせます。
1トンの無花果ときけば私たちには想像できない量ではありますが、仮に全量すべてがお酢になったとしても、500mlの容器に換算すると2000本分の量にしかならないとても貴重なお酢です。こうして仕込まれた無花果は、先ず酵母による発酵でアルコール度数6%の美味しいワインになり、アルコールを餌にお酢の主成分を排出する酢酸菌による酢酸発酵を経て熟成へと進んでいきます。

一滴の水も加えず、無花果が実る一時期だけ手に入る原料だけで造られる量は僅かで、さらに最初の発酵から熟成まで1年半以上の時間をかけられたお酢です。販売数量にも制限があり、たしかに高価なお酢ですが、ワインになりお酢へと醸されたこの蔵の無花果酢の貴重な世界を皆様と共有できればと思います。
蔵の当主は、完熟無花果の香りが漂う中で仕込むことを幸せと語っています。

濃縮された果汁を仕入れて仕込むことが当たり前の現在、この当主の言葉こそ私たちがあこがれめざす人の背中です。

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